神さまによってエジプトからの脱出に成功し「海の歌」を歌った時のイスラエルほど彼らの心が賛美と感謝で満たされていた時はなかったと思います。背後に覆い被さるように追って来たエジプト軍が全て海の水に呑み込まれるのを目撃して即興で歌ったのが「海の歌」でした。モーセの姉のミリアムが小太鼓を手に女性たちの音頭を取っている楽しげな様子が思い浮かびます。

主はわたしの力、わたしの歌
主はわたしの救いとなってくださった。
この方こそわたしの神。わたしは彼をたたえる。
わたしの父の神、わたしは彼をあがめる。（15:2）

　ここではわたしたちではなく「わたし」、単数形が使われています。神さまの奇跡に与った全ての人々が、ひとりひとり自分の告白としてこの歌を歌った、というのでしょう。素晴らしいことです。このような感激や感情の昂ぶりはしかし長続きはしないものです。返って一瞬だからこそ強く胸を打ち心に刻まれるものなのかも知れません。

　私たちにもそんな信仰の感動的な記憶、信仰の原風景というものがあります。その「絵」を思い出す度に信仰の初めの時の気持ちになれるような。それはそれで大切に持ち続けたいと思います。でも真の信仰はパッションではありません。神さまが勝利されたことにこれほどまでに感激したイスラエルでしたが3日後飲み水がなくなった途端「主は本当におられるのだろうか…」と存在を疑いモーセに不満をぶつけるようになるのです。彼らの信仰はこの時点ではまだパッションでしかなかったのでしょう。