ユダヤ州の総督として赴任したフェストゥスの許に、ユダヤ州の王アグリッパとベルニケが敬意を表するためにやってきました。王とはいえ植民地の小領主です。ローマ帝国から派遣された総督への気遣いは欠かせなかったものと思われます。フェストゥスは、前任者が結審もせずに放置して去った裁判について、この王に相談してみようと思い立ちました。ユダヤ人でありユダヤ教についても神殿についても造詣が深いアグリッパならば何かよい知恵を貸してくれるかも知れない、と。
フェストゥスは、パウロには死罪に相当する罪が見いだせないとの結論を出していました。そしてローマ皇帝に直訴するというパウロの願いも聞き届けて準備を進めようとしていました。ただ皇帝に届ける「添え状」に書く内容について頭を痛めていたのです。彼はアグリッパに「私はこれらのことの調査の方法が分からなかった」と打ち明けています。彼が調査したかったのはパウロが、死んでしまったイエスとかいう者が生きていると主張していることでした。確かに調査は難しいでしょうね。そしてそれを文書に書き記すのはもっと大変でしょう。前任者のフェリクスはこの裁判を投げ出してパウロを2年間も「囚人」のまま軟禁していましたが、フェストゥスは総督という仕事に熱意を持っていたと思われます。この訳の分からない裁判にも真摯に向き合い、それ故に悩まなければならなかったのです。正直者は損をする…。この世の価値観はそうであっても天上ではきっと逆転するはずです。