降誕物語の登場人物から今朝は「アンナ」を取り上げます。ルカの福音書には素敵な女性がたくさん登場しますがアンナも確かにその一人です。若くして夫と死別した彼女は、以降神殿を離れず断食と祈りと神さまへの奉仕―つまりは神殿の下働きでしょうか―忠実に仕えながら84歳になっていた、とあります。彼女の周辺情報が余りに少ないので想像するよりありませんが、この時代を生き抜くことの困難は如何ばかりであったでしょう。
手許の「アートバイブル」にレンブラントの「幼児キリストを讃えるシメオン」という油彩画が収められています。神殿の柱の台座に腰を掛け、嬰児のイエスさまを膝に抱いてマリアに話しかけるシメオンの背後で、アンナは驚いたように両腕を広げて立っています。はっきりした目と何か言いたそうな口元が見る者を惹きつけます。彼女は、エルサレムの救いを待ち望んでいる人々皆に幼子のことを話した。レンブラントの彼女にはいかにもその「はまり役」の感があります。
彼女の人生は文字にすれば聖書のわずか3節で語り尽くせそうなほどシンプルでしたがその内容は悲喜こもごも、豊かで濃くて美しいものであったと私は思います。神さまがいつも共にいてくださることを実感する人生は「幸い」と呼ぶにふさわしかっただろうと思います。夫との死別という悲惨の極みを知っていたアンナはまた、自分の分を弁えていた人でもあったようです。人生の夕暮れに近づくほどに慎ましく穏やかであったアンナの姿を胸に映しつつ今年の「せっきょうまえせつ」を終わります。