イエスさまの一行は王国時代のイスラエル北限の地フィリポ・カイサリアへとやって来ました。イエスさまは、この世での終焉の地エルサレムに向かって突き進む時が来たと思われたようでした。そこで懐かしいガリラヤが見渡せるこの地、パレスチナでは珍しく美しい景色が広がるフィリポ・カイサリアを十字架への旅の出発点となさいました。この旅において弟子たちに「メシアの秘密」を明かし彼らが正しい「メシア理解」に至るよう教えようとされたのです。

 あなたがたは私を何者だと言うのか。ペトロは即座に答えました。あなたは、メシアです。言葉は正しい答でした。しかしペトロが心の中に思い描いていたメシアは真のメシアではありませんでした。それをご存じのイエスさまは、ここに至ってもご自分のことを誰にも話さないよう弟子たちを戒められるほかなかったと思われます。今までと違うことは無理解な弟子たちに向かってあからさまに受難を告げられたことでした。もはや時間の猶予がなかったからです。

 弟子たちは予想に違わず(困った)反応を示しました。中でもペトロの行動は礼を欠いたものでした。弟子が師匠をしたり顔で戒めたのです。サタンよ、引き下がれ。厳しいイエスさまの声が響きます。

 しかしイエスさまは、ペトロがサタンだと詰られたわけではありませんでした。自分のメジア像に固執して真実を受け入れないようにさせているペトロの中のサタンに向かってそう言われたのです。さらにペトロに向かって私に従ってくるようにとも言われたのでした。